
一度聴けばその独特の世界観とサウンドの虜になる、2022年の4月に投稿されたフロクロ氏制作の楽曲『黒塗り世界宛て書簡』。歌詞の大部分が黒塗りと規制音で覆われているこの曲を、多くの人の考察が考察をしました。
そんな中、YouTubeにてなるほどさんが、規制音なしの二次創作動画を公開。その見事な解読と再現度の高さが大きな話題を呼び、100万回再生を突破しています。
この記事では、なるほどさんの二次創作によって解読された歌詞を元に、『黒塗り世界宛て書簡』に込められた深いメッセージを考察していきます。
※本記事は、なるほどさんの二次創作動画を元にした解釈となります。また、一部の表現をマイルドに変更しています。
物語は、表現の自由が失われた世界を嘆くフレーズから始まります。
なるほどさんの解読によると、冒頭部分は「話したいこと」すら自由に口にできない世の中なら、自ら「毒杯」を呷る方がましだという、痛烈なメッセージが歌われています。
このフレーズは、反町隆史さんの名曲『POISON』や、自らの思想を貫き毒杯を呷った哲学者ソクラテスの逸話を彷彿とさせます。言葉を奪われることは、命を手放すことよりも耐えがたい苦痛であるという、強烈な意志表示が感じられますね。
続いて、一度は意思を奪われたとしても、主観的な感覚である『クオリア』を持った『なきがら』として蘇り、『消え』きれなかった思いを燃やし続けるという決意が語られます。
「なきがら」が意識を持つという矛盾した表現は、この世界の異常さを際立たせています。また、「消え切れなかった夜をくべる」という表現は、言論統制をテーマにしたamazarashiの名曲『リビングデッド』を思わせ、様々な文学や音楽への深い造詣が感じられます。
曲の雰囲気が一変し、物語の核心に迫るパートへと移ります。
ここでは「451度」という象徴的な数字が登場します。これはアメリカのSF作家レイ・ブラッドベリの小説『華氏451度』からの引用でしょう。華氏451度(摂氏約233度)は紙が自然発火する温度であり、この小説は書物の所持が禁じられたディストピア社会を描いています。
ここでは、規制の炎でも消し去ることのできない「輝き」を追い求める心情が歌われています。さらに、アルファベットを操る者たちが、失われた言葉を取り戻そうと試みる様子が描かれ、後に明かされる驚きの仕掛けへの重要な伏線となっています。
さらに、夜の空さえも見ることができない状況で午前4時のニュースが流れる様子が描かれます。これには巧妙な言葉遊びが隠されており、「いちきゅうはつよじ」という響きは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』を連想させます。この小説もまた、徹底した監視社会を描いたディストピア文学の金字塔なのです。
そして、小説に登場する思考統制言語「ニュースピーク」を暗示するように、「ピーク」を上回った「脳の寄生」を追い払うという内容が歌われます。「脳の寄生」と「NOの規制」をかけた言葉遊びも秀逸で、思想統制からの解放を願う強いメッセージが伝わってきます。
いよいよ、この楽曲のクライマックスです。
主人公は、黒塗りにされた世界の「裏各地へ」と叫びを届けようとします。この「裏各地へ」という言葉は、「世界の裏をかく知恵」というダブルミーニングになっているという解釈が広く知られています。
そして、本家では怒涛の規制音に覆われるパート。なるほどさんの解読は、この部分に過激で直接的な言葉が並んでいることを示唆しています。
そこでは、「最期」や「忌む」「嫌い」「逝く」といったネガティブな感情や言葉さえも「愛す」という、倒錯的とも言える強い意志が歌われているようです。自らを「イかれた気違い」と称し、その歌が常軌を逸した「沙汰の詩」であると表現しています。
さらに、「神」によって「焼き払われた」た言葉を、「狂った痴れ人」が生かしていくという内容は、規制された言葉を解読し、その意味を蘇らせるリスナーたちの姿を予見していたかのようです。
そして、「君」以外の全てが「朽ち果てた」世界で、「コイ」や「スキ」、「アイ」といった恋愛感情すら伝えられなければ、「果ててもなお果てきれない」という切実な叫びが続きます。
このように、規制された部分には、絶望的な世界への反抗と、それでも失われない人間的な感情が凝縮されていると解釈できるのです。
この曲全体が、言葉が統制された「黒塗り世界」へ宛てた挑戦状であり、痛烈な皮肉に満ちた「ラブレター」だったのかもしれません。
英語タイトルが「Letter to the Black World」であることからも、これは「黒塗りにされた書簡」ではなく「黒塗りの世界へ宛てた書簡」なのだと理解できます。
規制されればされるほど、人々はその裏側を知りたがり、新たな解釈が生まれる。フロクロ氏は、規制という行為の無意味さと、それでも何かを伝えようとする人間の創造力の強さを見事に表現しました。
なるほどさんの素晴らしい二次創作は、私たちがこの楽曲の奥深さをより一層味わうための、最高のガイドとなっています。ぜひ本家と合わせて聴き比べ、あなただけの「輝き」を見つけてみてください。
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